毎日欠かさず歯磨きをしているにもかかわらず、歯医者さんで「磨けていませんね」と言われた経験はありませんか。実は「磨いている」ことと「磨けている」ことは大きく異なります。虫歯や歯周病から大切な歯を守るためには、正しい歯磨きの基本を理解し、実践することが不可欠です。本記事では、歯科医師や歯科衛生士が推奨する効果的な歯磨き方法について、詳しく解説いたします。
歯磨きの目的と基本原理を理解する
歯磨きの本当の目的とは
歯磨きの最大の目的は、歯の表面に付着した歯垢(プラーク)を除去することです。歯垢は生きた細菌の塊で、むし歯・歯周病などの原因となります。この歯垢は乳白色で歯と同じような色をしているため、注意してみがかないとみがき残してしまいます。さらに、水に溶けにくく歯の表面に粘着しているため、うがいでは取り除くことができません。歯磨きによって、このプラークを取り除き虫歯や歯周病などにならないようにすることが大切です。
歯垢は食後約8時間で形成が始まり、24時間で成熟します。特に就寝中は唾液の分泌量が減少するため、細菌が増殖しやすい環境となります。そのため、食後の歯磨きに加えて、起床時と就寝前の歯磨きが特に重要になります。効果には個人差がありますが、正しい歯磨きを継続することで、多くの方が口腔内の健康状態を改善できます。
正しい歯磨きの3つの基本原理
正しい歯磨きを行うためには、以下の3つの基本原理を理解することが重要です。
- 毛先を歯の面にあてる:歯ブラシの毛先を歯と歯肉の境目、歯と歯の間にきちんとあてることで、歯垢を効率的に除去できます
- 軽い力で動かす:歯ブラシの毛先が広がらない程度の軽い力で磨くことで、歯や歯茎を傷つけることなく汚れを落とせます
- 小刻みに動かす:5~10mmの幅を目安に小刻みに動かし、1~2本ずつ丁寧に磨くことで、磨き残しを防げます
これらの原理を守りながら、1か所を20回以上、歯並びに合わせて歯磨きを行うことが推奨されています。大きく強く動かすと歯と歯の間にブラシの毛先が届かず、磨き残しが多くなってしまいます。また、強すぎる力は歯茎の退縮や歯の表面の削れを引き起こし、知覚過敏の原因となる可能性があります。効果には個人差がありますが、適切な力加減で磨くことで、多くの方が口腔内環境の改善を実感できるでしょう。
効果的な歯磨きの実践方法
歯ブラシの正しい持ち方と動かし方
歯ブラシは適切な力で動かせるように、筆記用具を持つときと同じような握り方「ペングリップ」で握ります。鉛筆を握るのと同じ握り方で、親指と人差し指(および中指)ではさむように握るのが効果的です。このほうが、歯ブラシに無駄な力が入らず、適度な力で細かく動かすことができます。
歯ブラシの柄をわしづかみのようにして握ると、力が入りすぎてゴシゴシと強く磨いて歯を傷つける原因になってしまいます。力の入れ具合は、ブラシの毛先が歯と歯の間に留まる程度で、開きすぎても適切ではありません。適切なブラッシングの力加減は、「歯ブラシの毛先が歯と歯肉に軽く触れる程度」です。目安としては、歯ブラシを持つ手をペンを持つように軽く握ることで、力をコントロールしやすくなります。
磨く際の部位別のテクニックとして、奥歯は歯ブラシの全面を使用して2本づつ磨くように動かし、前歯は歯ブラシを縦にして1本づつ磨きます。前歯の裏側は歯ブラシを縦にしてかかとの部分を使用し、歯と歯茎の境目は歯ブラシのわきの部分を使用して磨くことで、効率的に汚れを除去できます。効果には個人差がありますが、正しい持ち方と動かし方を習得することで、多くの方が歯磨きの効果を向上させることができます。
理想的な歯磨きの時間と回数
歯磨きの理想的な時間について、歯科医師の間でも意見が分かれることがありますが、共通していることは歯の1本1本を丁寧に磨くことが重要ということです。時間は全体で測るのではなく、1本づつ回数を決めて行います。1本磨くのに、歯ブラシを20回動かし、2本同時に20回動かすと、およそ2本につき10秒として頬側と舌側で20秒かかります。
成人は歯が28本あるので、28×20秒=560秒(約9分30秒)、噛み合わせの部分を含めておよそ10分くらいの計算になります。しかし、10分磨いても同じ場所ばかりを磨き続けていたらきれいになるのは一部分だけです。そのため、まずは磨く順番を決めて全体をしっかり磨くことが重要です。
歯磨きの回数については、一般的には毎食後3分間の歯磨きが推奨されています。理想的なタイミングは起床時、朝食後、昼食後、夕食後、就寝前の5回ですが、日中に歯磨きができない方は、特に夕食後と就寝前に歯磨きをすることが推奨されます。朝の歯磨きは、就寝中に溜まってしまったプラークを磨き落とし、口臭を予防します。夜は、就寝中にプラークが増えやすいので、食べかすをきれいに掃除し、細菌の繁殖を防ぐための歯磨きです。効果には個人差がありますが、適切な時間と回数で歯磨きを継続することで、多くの方が口腔内の健康維持を実現できます。
歯磨きの最適なタイミング
歯磨きのタイミングについては、「食後すぐに磨く派」と「食後30分以上時間を空けてから磨く派」の2つの説がありますが、現在では食後はできるだけすぐに歯を磨くことが正解とされています。食後すぐに歯を磨くことで虫歯菌の棲み家となるプラークの増殖を防ぎ、食後、酸性に傾いた口の中を歯磨きによって中性に戻すことができます。
「食後30分経ってから磨く」という説は、食後は食べ物の酸や熱によって歯のエナメル質がやわらかくなっているため、口の中が中性に戻る「食後30分」経ってから歯を磨く方が良いという理由から広まりました。しかし、食後30分も歯磨きをするのを待っていると、むし歯の原因となってしまいます。酸性の強い飲食物を摂取した後は、一度お水やお湯でお口をすすいで希釈させてから、歯磨きをするようにしましょう。
特に就寝前の歯磨きは重要です。夜、お口の中に食べカスや歯垢が残ったまま寝てしまうと、寝ている間にそれらを餌にして細菌が増殖し、むし歯や歯周病になるリスクが高まります。食べカスや歯垢をきちんと取り除いておくためにも、就寝前の歯磨きは特にしっかりと丁寧に行いましょう。効果には個人差がありますが、適切なタイミングでの歯磨きを継続することで、多くの方が虫歯や歯周病のリスクを軽減できます。
歯ブラシと歯磨き粉の選び方
自分に合った歯ブラシの選択基準
歯ブラシ選びは効果的な歯磨きを行うために極めて重要です。歯ブラシの毛の硬さには、「やわらかめ・ふつう・かため」と3種類があり、歯茎が健康な人は、一般的な硬さで汚れを落としやすい「ふつう」を選ぶようにしましょう。歯肉炎や知覚過敏の人、歯茎が弱くなっている人は「やわらかめ」を選ぶことが推奨されます。「かため」は力を入れて磨いてしまうと歯や歯茎を傷つける可能性があるため、一般的には避けた方が良いでしょう。
歯ブラシのヘッドの大きさの目安は「自分の前歯2本分」の大きさです。それ以上大きいものは、大きすぎるため推奨できません。ヘッドが大きすぎてしまうと、奥歯や細かい箇所に毛先が届きにくく磨き残しの原因になります。特に女性は男性よりも口腔内が狭いため、小さいヘッドがおすすめです。コンパクトタイプや超コンパクトタイプでは、すみずみまで磨くことができるのが特徴ですが、歯に当たる範囲が狭いため、普通タイプに比べて歯磨きに時間がかかります。
毛先の形状については、毛先が丸く歯や歯茎にやさしい「ラウンド」、毛先が先端に向かって細くなっていて歯周ポケットに届きやすい「テーパード」があります。円状や水平の形状は、歯表面のプラーク除去に特に優れており、虫歯を予防するのに役立ちます。テーパードの毛先は、細く先細りになっており、歯と歯茎の境界に届きやすいため、歯周病予防や進行の抑制に効果的です。効果には個人差がありますが、自分の口腔内の状態に適した歯ブラシを選択することで、多くの方が歯磨きの効果を向上させることができます。
歯磨き粉の効果的な選び方と使用法
歯磨き粉を使用することで「歯垢を落としやすくする」メリットが得られます。歯磨き粉は歯の再石灰化を促す「フッ素」を配合したものがおすすめです。フッ素配合歯磨き粉は、歯垢の除去だけでなく、再石灰化により、酸で溶けた成分を歯に戻して修復してくれます。虫歯予防でよく使われる成分には、フッ化物(フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズ)があり、歯周病予防でよく使われる成分には、クロルヘキシジン、塩化ナトリウム、塩化リゾチームがあります。
歯磨き粉の使用量は、フッ素配合の歯磨き粉を使用する場合、歯ブラシに2cmほどの歯磨き粉を使用することが推奨されています。多く使用することでお口の中にフッ素が停滞し、虫歯予防効果が期待できます。フッ素をできるだけお口の中に高濃度で作用させるためには、歯ブラシを濡らさずに使用することが推奨されます。歯ブラシを濡らした時に、フッ素の濃度が薄まってしまうからです。
研磨剤については、リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等が使用されています。全く配合されていないものもありますが、歯磨きは歯を削ることが目的ではありませんので、過度に研磨剤が配合されているものは注意が必要です。歯磨き後は口をすすぐ人がほとんどですが、フッ素や薬用成分をお口の中にとどめておくためには、少量の水ですすぐのがおすすめです。少ない水で1回、5秒程度を目安にすすぎましょう。効果には個人差がありますが、適切な歯磨き粉の選択と使用法により、多くの方が口腔内の健康向上を実感できます。
まとめ
正しい歯磨きは、単に時間をかけることではなく、適切な方法で効率的に歯垢を除去することが重要です。歯ブラシの持ち方、動かし方、磨く順番を決めること、そして自分に合った歯ブラシと歯磨き粉を選択することで、虫歯や歯周病のリスクを大幅に軽減できます。毎日の歯磨きを「磨いている」から「磨けている」状態に変え、生涯にわたって健康な歯を維持していきましょう。効果には個人差がありますので、定期的に歯科医師や歯科衛生士による検診と指導を受けることをお勧めします。